指揮者 横島勝人の公式ウェブサイト
Conductor Katsuto Yokoshima Official Website
「モーツァルトのレクイエム」考
シューベルトを想う
ウィ―ンにいたころ、歌の方がこんなことを私に言って下さいました。
「 シューベルトの歌曲で春の歌が多いのはウィーンの寒い厳しい冬のあとに突然やってくる春の喜びを知っていたからなんだ。」
向こうの冬は本当に長く、4月頃まで寒いんです。
気温もマイナスは普通、0度は暖かく感じてしまいます。
多分アルプスの影響でしょう。突き抜ける寒さ、底冷えします。
おまけに太陽もなかなか顔を出してくれません。毎日が曇り。
午後3時、4時ともなると薄暗くなってきてさみしい風が吹いてきます。
このつらい冬のおかげ・・・じゃないですが、春の訪れが待ち遠しくて仕方がないんです。
人々も草木もみな 春が来るのを静かに待っています。
そして ある日突然、春はやって来るのです。
今日も寒いんだろうな と思って外に出ると、きのうまでの“冬”はどこへ?
街角では花がうれしそうに咲いていて、小鳥がさえずり、人々は薄着で散歩。
この変化は 日本では体験した事のないものでした。
なんともいえないワクワク感、うきうき感・・・シューベルトはこの喜びを音楽や歌曲で表現したかったんだ と このとき自分の中で彼の言葉がつながりました。
ところで皆さん、シューベルトは好きですか?
私がシューベルトを好きになったのは、ウィ―ンに住んでからなんです。
シューベルトの交響曲を演奏すると(特に5番と7番「未完成」が多いのですが)、ウィ―ンの街並みや風景、時にはそこにいる人々までもが目の前に浮かんでくるのです。
シューベルトの音楽って ウィーンの自然とぴったりの音の香りがするんですね。
ケーキやお菓子のような甘い響き、激しい雷雨のような音、そして雪の降るような静かな旋律、突然訪れる春の喜びの歌。
シューベルトは ウィ―ンで生まれ育ちました。
彼は その肌で感じた感覚を音にする事を許され、選ばれた人なのだと思っています。
私がシューベルトの一生を知って、ひとつだけ悲しく思ったことがあるんです。
それは 彼を認めてくれた人があまりに少ないことでした。
生きている間、友人、知人以外には ほとんど理解してもらえませんでした。
あんなに素敵な音楽を書いていたのに・・・。
もっと多くの人たちに知ってもらえても良かったのに・・・。
31歳で亡くなったシューベルト。
数少ないウィ―ン出身の作曲家。
シューベルトに言ってあげたいです。
「あなたの曲を 今は世界中の人が愛している」って。
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